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著作権裁判例3:海賊版サイト運営者の著作権侵害責任

Q. 私は漫画家なのですが、私の作品が無断でインターネット上にアップロードされています。アップロードされているのは「漫画村」と呼ばれるサイトで、他にも多くの作品が無断アップロードされているようです。「漫画村」を運営する人は、罪に問われないのでしょうか?

A. 漫画村の運営者は、令和3年6月2日、いわゆる著作権侵害罪により、有罪判決を受けています。

紹介裁判例・論文

 ・福岡地判令和3年6月2日裁判所ウェブサイト

 

 

第1 問題の所在

   本件も、漫画村にかかわる裁判です。漫画村事件の刑事裁判では、被告人が、漫画村運営に当たって、「リバースプロキシ」と呼ばれる技術を利用していたこととの関係で、被告人が漫画等を違法に「送信可能化」したといえるのかが問題となりました(「リバースプロキシ」は、犯収法上の前提犯罪が成立するかという位置づけで問題とされています。直接の著作権侵害事実認定レベルで、被告人が「送信可能化」したかどうかについても問題となっています。直接著作権侵害罪に問われているのはこちらですが、あまり面白くないため、割愛いたします。)。

 

第2 東京地判令和2年10月13日ウェストロー・ジャパン

 1 争点(「リバースプロキシ」に関するもの)

  • 漫画村に掲載された漫画等の大半は、リバースプロキシを利用して閲覧できるようにしたものであるが,リバースプロキシを設定する行為が、著作権法2条1項9号の5イに規定する送信可能化に該当するかどうか。

 

 2 裁判所の判断

⑴ 事実関係について

ア 「リバースプロキシ」とは

リバースプロキシとは、オリジンサーバ(第三者のサーバ)とユーザー(漫画村の閲覧者)との間のデータ送信を中継する機能又はその機能を有するサーバ(本件では漫画村のサーバ)をいう。リバースプロキシには、一般的に、オリジンサーバのセキュリティや匿名性を高め、送信されるデータをキャッシュ(一時保存)することによりオリジンサーバへの負荷を軽減する機能がある。

 

イ 被告人が漫画村のサーバに施していた設定

(ア)キャッシュの設定

被告人は、漫画村のサーバにはデータをキャッシュしない設定としていたと供述しており、それを前提とすると、リバースプロキシの方法により漫画村に掲載された漫画等の画像データは、第三者サーバの記録装置に存在し、漫画村の記録装置には保存されないこととなる。

(イ)CDNサーバの設定

  被告人は、一定期間、漫画村のサーバと閲覧者との間に、リバースプロキシとして、アメリカ合衆国所在のPが提供するCDNサーバを利用しており、一般のユーザーが漫画村の漫画を閲覧する際は、漫画村のサーバではなく、CDNサーバにアクセスする仕組みになっていた。これにより、漫画村のサーバから送信される画像データがCDNサーバにキャッシュされることでデータ送信の効率化が図られ、CDNサーバの介在によってユーザーからは漫画村のサーバが見つからなくなり、セキュリティが向上し、匿名性も高まるなどの効果があった。

⑵ 「リバースプロキシ」設定による送信可能化の有無

ア 弁護人の主張

弁護人は、送信可能化に該当するためには、「自動公衆送信し得るようにすること」が必要であるが、その際、自動公衆送信し得ない状態から、自動公衆送信し得る状態に移すことが必要であり、①リバースプロキシを設定することは,第三者がインターネット上において既に公衆送信し得る状態を作出していた侵害コンテンツに,ユーザーを誘導するものにすぎないから,文理上,「自動公衆送信し得るようにすること」と評価することはできない、②被告人のしたリバースプロキシの設定は,いわゆるリンクの貼付けと同様,第三者が既にインターネット上において自動公衆送信し得る状態を作出していた侵害コンテンツに誘導する行為であるから,リンクの貼付けと同様の規律に服するべきであると主張して争いました。

 

イ 漫画村サーバの自動公衆送信装置該当性

裁判所は、漫画村のサーバは,インターネット回線に接続し,その記録媒体に記録された漫画の画像データや,第三者サーバから送信された漫画等の画像データを、公衆からの求めに応じ自動的に送信するものであるから,自動公衆送信装置に該当するものと判示しました。

 

ウ 「情報が記録された記録媒体を当該自動公衆送信装置の公衆送信用記録媒

体として加え」る該当性

漫画村のサーバにリバースプロキシの設定をすることにより,漫画村のサーバは,閲覧者から画像閲覧のリクエストを受けるとその画像データを第三者サーバにリクエストし,第三者サーバからその画像データの送信を受け,受け取った画像データを閲覧者に返信することになる。これによると,第三者サーバ内部にある記録媒体のうち漫画村のサーバに送信する画像データを記録保存している部分は,自動公衆送信装置たる漫画村のサーバに画像データを供給する働きをするものと認められ,機能的にみて,漫画村のサーバに接続された記録媒体に当たると評価できる。

そして,上記の漫画村のサーバと第三者サーバの記録媒体との関係は,被告人が漫画村のサーバにリバースプロキシの設定をすることにより生じたことによれば,同行為は,情報が記録された第三者サーバの記録媒体を漫画村のサーバの公衆送信用記録媒体として「加え」る行為に該当すると認められる。

したがって,漫画村のサーバにリバースプロキシの設定をした被告人の行為は,著作権法2条1項9号の5イにいう「情報が記録された記録媒体を当該自動公衆送信装置の公衆送信用記録媒体として加え」る行為に当たると認められる。

 

エ 「当該自動公衆送信装置に情報を入力する」該当性

     第三者サーバに記録保存されていた漫画等の画像データは,閲覧者のリクエストに応じて漫画村のサーバに入力されるものの,漫画村のサーバには記録保存されることなく,そのまま自動公衆送信されていた。これは,著作権法2条1項9号の5イにいう「当該自動公衆送信装置に情報を入力する」ことに当たる。

もっとも,かかる情報の入力は,閲覧者のリクエストに応じて自動的に行われるのであるから,当該情報の入力を行った主体が誰であるかが問題となる。

著作権法が,自動公衆送信とは別に,送信可能化を規制対象として規定した趣旨は,現に自動公衆送信が行われる前の準備段階の行為を規制することにある。そして,送信可能化が,公衆からの求めに応じて自動的に送信する機能を有する自動公衆送信装置の使用を前提としていることに鑑みると,情報入力の主体は,閲覧のリクエストをした個々の閲覧者ではなく,情報を自動的に入力する状態を作り出した者と解するのが相当である。

本件において,情報を自動的に入力する状態を作り出したのは,漫画村のサーバにリバースプロキシの設定をした被告人であるから,行為主体は被告人と認められる。

 

オ リバースプロキシとリンクの違い

リバースプロキシの設定は,いわゆるリンクの貼付けとは違い,リバースプロキシを設定されたサーバが,オリジンサーバが管理する別のウェブサイトへの遷移を伴わずに,ユーザーが閲覧をリクエストした画像データ自体をオリジンサーバから取得して,受信者に対し,当該画像データそのものを送信するものである。

この行為が著作権法の定める送信可能化に該当することは既に検討したとおりであり,データ自体を送信せず,インターネット上の侵害コンテンツの所在(URL)を表示するにすぎないリンクの貼付けとは,行為態様を全く異にしている。当該行為が,今般の法改正によって初めて可罰性を認められたと解することはできず,その旨の弁護人の主張は採用できない。

 

第3 検討

1 「送信可能化」とは

著作権侵害が成立するためには、侵害者が、支分権街灯行為を行っている必要があり、漫画村事件では、送信可能化の有無が問題となりました。

著作権法2条1項9号の5イの「送信可能化」は、よく読むと、4つの行為類型が定められています。具体的には、公衆の用に供されている電気通信回線に接続している自動公衆送信装置の公衆送信用記録媒体に情報を①記録し、②情報が記録された記録媒体を当該自動公衆送信装置の公衆送信用記録媒体として加え、若しくは③情報が記録された記録媒体を当該自動公衆送信装置の公衆送信用記録媒体に変換し、又は④当該自動公衆送信装置に情報を入力することの4つです。

この中で、漫画村事件では、特に「加え」と「入力」の2類型が問題となったわけです。

本件では、まず、リバースプロキシの設定により接続される画像データを記録した第三者サーバを、「機能的にみて」漫画村のサーバに接続された記録媒体に当たる、として、「加え」たことによる送信可能化を認めました。

 

2 侵害主体論

   「入力」との関係では、被告人が「当該自動公衆送信装置に情報を入力」したといえるか、すなわち侵害主体論が問題となりました。その中で、本件は、「情報入力の主体は,閲覧のリクエストをした個々の閲覧者ではなく,情報を自動的に入力する状態を作り出した者」であると判示し、リバースプロキシ設定を行った被告人を送信可能化の主体と判断しました。

送信可能化の主体が問題となった有名な先例としては、まねきTV事件があります(最判平成23年1月18日民集65巻1号121頁)。同事案においても、送信可能化の主体として認定されたのは、具体的にどのような番組を送信可能化するかを決定する顧客ではなく、当該仕組みを設けた事業者でした。そのため、少なくとも、「入力」による送信可能化の侵害主体を認定する上では、当該自動公衆送信装置への情報入力行為を行うか否かという意思決定行為をだれが行いうるのかという事項は、ほとんど考慮されていないということは、本判決においても同様であると言えそうです(平嶋竜太「判批(最判平成23年1月18日民集65巻1号121頁)」著作権判例百選〔有斐閣・5版・2016〕195頁)。