welaw's log

IT・知財周りの裁判例・論文解説をメインにたまに息抜き

著作権裁判例1:海賊版サイトに広告を掲載させたWEB広告代理店の著作権侵害幇助責任

Q. 弊社ではオンライン広告をよく出稿してWEB集客を行っているのですが、いわゆる海賊版サイトに広告に広告を出せることを売りにしている広告代理店から営業を受けました。広告代理店のこのような行為は、著作権法等に触れないのでしょうか?

A. 当該広告代理店は、著作権侵害を幇助したものとして、著作権侵害にかかわる損害賠償責任を負う可能性があります。

紹介裁判例・論文

 東京地判令和3年12月21日裁判所ウェブサイト

 

第1 問題の所在

   いわゆる漫画村事件にまつわる裁判例の一つです。原作者に無断で漫画をオンラインに無料でアップロードする行為は、著作権法上の複製権侵害(著作権法21条)、公衆送信権侵害(著作権法23条)を侵害する行為であり、今回の漫画村の首謀者も、(理論構成は複雑ながら)著作権法違反により有罪判決を受けています(福岡地判令和3年6月2日裁判所ウェブサイト。別の機会に触れたいと思います。)。今回の裁判例では、以上を前提に、漫画村に広告を掲載していた広告代理店の著作権侵害公衆送信権侵害)「幇助」の責任が問われた事件です。

 

第2 東京地判令和2年10月13日ウェストロー・ジャパン

 1 事案の概要

本件は、漫画家である原告が、インターネット上の漫画閲覧サイト「漫画村」(以下「本件ウェブサイト」という。)において原告の著作物である漫画が無断掲載されて原告の公衆送信権が侵害されているところ、被告らは本件ウェブサイトに掲載する広告主を募り、本件ウェブサイトの管理者に広告掲載料として運営資金の提供等をすることにより、上記公衆送信権侵害を幇助したと主張して被告らに対し、共同不法行為者としての責任(民法719条2項、709条)に基づき、損害賠償金1100万円及びこれに対する原告の漫画が本件ウェブサイトに無断掲載された日のうち最も後の日である平成29年11月18日から支払済みまで民法(平成29年法律第1044号による改正前のもの。)所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める事案である。

 

 2 裁判所の判断

⑴ 被告らの幇助による共同不法行為の成否

    本件ウェブサイトの運営者が、原告漫画の無断掲載行為によって、原告の原告漫画に係る著作権公衆送信権)を侵害したものであること、本件ウェブサイトの運転資金源のほどんどが広告料収入により賄われていたことを踏まえ、「このような本件ウェブサイトの運営実態からすると、本件ウェブサイトに広告を出稿しその運営者側に広告料を支払っていた行為は、その構造上、本件ウェブサイトを運営するための上記経費となるほとんど唯一の資金源を提供することによって、原告漫画を含め、本件ウェブサイトに掲載されている漫画の多くを、著作権者の許諾を得ずに無断で掲載するという 本件ウェブサイトの運営者の行為、すなわち、原告漫画の公衆送信権の侵害行為を補助しあるいは容易ならしめる行為(幇助行為)といえる」として、幇助行為(及び幇助行為と原告の損害の因果関係)を認めました。

    被告らは、被告らが広告掲載先とするWEBサイトすべてが違法に著作物を掲載するものではないこと等をもとに、被告らの広告配信サービスの提供が社会通念上、一般的、類型的に著作権侵害を招来する現実的危険性を有する行為とはいえず、幇助に該当しないとの反論をしていました。

しかし、裁判所は、「本件ウェブサイトとの関係においてみれば、被告らが広告主からの依頼を取り次いで本件ウェブサイトの運営側に広告料を支払うことは、本件ウェブサイトによって行われる著作権侵害行為を助長し、容易にする現実的危険性を有する行為と言わざるを得ない」として、被告らの主張を退けました。

 

⑵ 被告らの行為と原告の損害の因果関係

被告らは、被告らと本件ウェブサイトとの間に直接の取引関係はなく、本件ウェブサイトの窓口となっている第三の会社(D社)に広告料を支払っていただけであり、本件ウェブサイトの運営資金に回っていた金銭の割合は不明であり、原告漫画の売り上げ減少にどの程度影響したのか明らかではないから、因果関係は認められないとの反論をしました。

しかし、裁判所は、「被告らから本件ウェブサイトの運営者にどの程度の金額が還流していたのかは不明であるとしても、被告らが事業主の依頼を受けて広告を出稿すべくDを通じて広告料の全部又は一部を本件ウェブサイトの運営者側に支払うことによって、原告漫画の著作権公衆送信権)侵害行為を助長していたと評価されることに変わりはな」い旨を判示し、因果関係を否定する事情とはならないと判断しました。

 

⑶ 被告らの故意又は過失の有無

    裁判所は、まず、①本件ウェブサイトが利用者から利用料等の対価を徴収せず、広告料収入をほぼ唯一の資金源として、新作を含む多数の漫画を違法掲載して利用者に閲覧させているという運営実態が存在したこと、②広告業界において、従前から違法な海賊版サイトがインターネット広告による広告料収入を資金源に運営されているという社会問題に対して早急に対策を強化する必要があるとの認識が広く共有され、平成29年には広告業界団体において、平成30年4月には、政府の方針において、一定の検討・方針が示されていたことを踏まえ、遅くとも被告らが本件ウェブサイトへの広告配信サービスの提供を開始した平成29年5月の時点においては、本件ウェブサイトの属性、すなわち、本件ウェブサイトが著作権者等から許諾を得ずに違法に多数の漫画を掲載している蓋然性を認識していたものであるといえる旨を認定し、原告漫画の知名度も踏まえ、原告の著作権侵害公衆送信権侵害)についての予見可能性を肯定しました。

そして、被告ら自身が、広告事業主からの広告掲載依頼を本件ウェブサイトとつなげることにより、営業上の利益を得ていたこと、Dを通じて本件ウェブサイトに掲載されている原告漫画について著作権使用許諾契約が締結されているか否かを確認することが困難であったことをうかがわせる事情が見当たらないことを踏まえ、違法行為を幇助することを回避することは可能であったものと判断しました。

以上を踏まえ、被告らには、「本件ウェブサイトの運営者が、そこに掲載する漫画の著作物の利用許諾を得ているかどうかを確認した上で、本件ウェブサイトへの広告掲載依頼を取り次ぐかどうかを決すべき注意義務」があった旨を判示しました。

その上で、被告らは同義務に違反したものとして、過失を認めました。

 

⑷ 原告の損害

    裁判所は、まず、①原告漫画の累計売上額がおよそ109億4940万円(累計発行部数早計2370万冊×462円/冊)であること、②原告の印税が約10%であることを認定しました。その上で、③本件ウェブサイトへの原告漫画の無断掲載により、読者の原告漫画の購買意欲が大きく減退するというべきであること、④一方で、被告らの行為はあくまで違法な無断掲載を、広告の出稿や広告料支払という行為により幇助したものにとどまること、⑤上記損害の内の一定部分については被告らの行為と関連性が認められないこと、⑥その他本件に顕れた一切の事情を考慮して、「被告らの本件における行為が原告漫画の売上減少に寄与した割合は、約1パーセントと認めるのが相当である」と判旨しました。

その上で、1000万円(≒109億4940万円×10%×1%)を損害として認定しました。

 

第3 検討・疑問点

 1 共同不法行為における「幇助」とは?

刑事事案として幇助が問題となることは多いですが、民事上の「幇助」が問題となる事例はそう多くありません。

そのため、潮見佳男『不法行為法Ⅱ』(2011・第2版・2011)172頁によれば、「他人が不法行為をするのを容易にする行為」であるとされていますが、過去の民事裁判例において、幇助の定義を述べるものはなかなか見当たりません。この点は、本件も同様のため、民事上の幇助責任を追及する際には、過去の裁判例から帰納的に考えるほかないように思われます(民事上の幇助責任についてまとめた文献として、東京高判平成23・12・7に関する論評記事である、判例タイムズ1381号174頁以下が参考になります。)。

 

 2 広告ネットワークの他の当事者の幇助責任

本件の被告らは、広告事業主からの出稿依頼を受けるポジションであったことが見受けられるため、いわゆるDSP(Demand Side Platform)に位置づけられる広告代理店だったのだろうと考えられます。この点、判旨中でも「アドネットワーク」が定義されていますが、「アドネットワーク」には、複数の当事者が、複雑に関わり合います。そのため、どの範囲の広告関係者まで、幇助責任の射程が及ぶのかが問題になります。

まず、本件ウェブサイトと被告らの間を取り持つD社は、本件の被告らとの間を取り持つ位置関係にあり、収益関係を成立させる上で重要な役割を占めていることから、被告らと同様に、幇助責任が認められやすいものと考えられます。

それでは、被告らの甘言にのり、広告を出稿することを決めた広告事業主自身は、幇助責任を問われないのでしょうか。個人的には、自らの広告料が本件ウェブサイト、すなわち漫画村の運営資金となることの説明を受けた上で、漫画村への広告を出稿することを決めた広告事業主については、被告らと利益状況が変わらないため、等しく幇助責任が認められるべきものと考えます(今回の事案で提訴されなかったのは、おそらく原告の意向として、漫画村の運営資金網を断つという目的を達成する上では、広告代理店のみをたたけばよかったからに過ぎないと思われます。)。

 

 3 損害の金額:控えめな算定?

結論として、原告の請求額を全部認容していますが、やや算定の論理に疑問が残ります。

原告は、その主張においては、❶違法掲載に係る原告漫画の、累計売上高は、109億4940万円である、❷印税率は一般に8~10%であり、原告は著名なベテラン漫画家であるから、10%が相当であること、❸本件ウェブサイトが原告漫画を無断掲載したことにより、消費者の購買意欲低下を招き、それによる損害は、1%を下回らない、として、1000万円(+弁護士費用1割の100万円)を算出しました。裁判所も、概ね原告の主張を認め、❸の部分について、理由を補足したとみるべきかと考えます(第2・2⑷③ないし⑥)。

この点、原告の印税収入の認定まではよいとしても、損害=売れなくなった漫画の部数であると考えるのであれば、著作権法114条1項の推定規定が問題にならなかった点について引っかかります。逆算すると、被告らが広告代理店であることや、漫画村の仕組み上、違法に流通した複製物の数量を特定するのが困難だったのではないかと思われます。

加えて、(漫画村を擁護するものではないものの)無料で中身が見れることにより、紙や正規の電子媒体での原告漫画購入を意欲する閲覧者がいることは、否定できないのではないかと考えれます。明示的な判示はないものの、このような価値判断も含めて1%の損害を認定したということであれば、漫画村の収益が膨大に上がっていて、1%程度であれば問題ないであろうという価値判断もあったのではないかと思われます。

 

 4 その他

  同事件の原告代理人が、海賊版サイト周りでの訴訟を手掛ける有名な方なので、裁判例ともどもフォローしていきたいですね。